「京の年中行事」の選定にあたって

年中行事とは、毎年特定の時期に、家庭や地域などで繰り返し行われる伝統行事のことで、神仏や自然に対する畏怖や感謝、先祖を敬い、故人をしのぶ心、子どもの健全な成長を願う思い、子孫に思いを致す心、生業や生活の向上を祈る気持ちなどを契機に生まれた。

年中行事には、お盆など日本の民俗に根差したもの、五節句など中国から伝わったもの、祭礼に伴うものなどがあり、それぞれにまつわる食べ物やしつらい、しきたりなどを伴いながら、暮らしの中で育まれてきた。

とりわけ千年の都・京都では、庶民が公家や武家、僧侶、神職などと交わった歴史が長く、加えて、商工業の発達により、扇屋や織物業など同業者の集住が促され、同業者同士のつながりが密接になったことから、独自の行事やしきたりが日常生活に定着し、豊かな生活文化が育まれてきた。

正月や五節句のように公家や武家の儀式からきているものや、節分や彼岸のように暮らしに深くかかわる雑(ざっ)節(せつ)から生まれたものなど、様々な年中行事は暮らしを彩り、普段通りの日常を「ケ」、祭礼や年中行事などを行う日を「ハレ」とする伝統的な考え方が、単調になりがちな生活にリズムをつけてきた。

日々の暮らしの中で、楽しみや安らぎをもたらしてきた年中行事は、無病息災を祈り、神仏や自然への畏敬の念を深めることを通じて人々の心を豊かにするとともに、家族とのふれあいを深め、さらに、地域コミュニティの活性化、地域経済・ものづくりの継承・発展にも役立っている。

このように人々の生活に欠かせない年中行事は、時代の変化に応じ、形を変えながらも大切に受け継がれてきた。太陽暦へ改暦された明治初期以降、年中行事の実施時期に混乱が生じた時期もあったが、人々は様々な工夫をしながら年中行事をつないできた。

現在、効率性、利便性を追求する生活スタイルの浸透や世帯の小規模化、地域におけるつながりの希薄化などにより、年中行事は衰退、或いは、簡素化されるなど、大きく変化している。

また、きものなど我が国独自の衣装やその装飾品をはじめとする京都の伝統的工芸品は、年中行事と密接に結びついており、年中行事の継承は伝統産業の存続にも関わっている。

先人が長い歴史の中で培ってきた文化は、現代に生きる私たちが次の世代に伝えていかなければならないものであるが、同時に、時代とともに移ろう暮らしの中で変化していくものでもある。

年中行事についても、形だけではなく、行事本来の意味、それらの中に込められた先人の思いや知恵、季節の移ろいを感じとる心を引き継いでいくことが重要であり、現代において実施できるものは実施し、なじまないものは今の生活に合った形で変えていく、そういう柔軟な方法で年中行事を守り、伝えていくことが大切であり、そのことが文化の継承につながっていくものである。

歴史や風土の中で受け継がれ、広く日常的に親しまれてきた暮らしの文化は、我が国の文化を語る上で不可欠なものとして、一層の振興を図ることが重要となっている。平成29年6月には、文化芸術基本法が施行され、食文化をはじめ生活文化の振興を図ることが基本的施策とされた。また、文化庁の京都への全面的移転に伴い、生活文化等の新分野へ政策対象を拡大する方針が掲げられている。

京都市では、世代を越えて大切に受け継がれてきた無形文化遺産を継承していくため、平成25年4月、“京都をつなぐ無形文化遺産”制度を創設し、これまで「京の食文化」「京・花街の文化」「京の地蔵盆」「京のきもの文化」「京の菓子文化」を選定してきた。そして、私たちは、移り行く季節の中で行われる様々な行事の際にこれらの文化に触れ、その体験を通じて継承していく意義を強く認識することができる。

こうした状況を踏まえ、伝統文化に親しみ、生活文化を継承していく機会となっている年中行事の価値を見つめ直し、継承していく大切さを再認識するとともに、その意義を広く市民に発信していくため、「京の年中行事―季節・暮らし・まちを彩る生活文化」を“京都をつなぐ無形文化遺産”に選定する。

京の年中行事

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